「属人性を排除せよ」の先に、結婚式は残るのか?
aug 09, 2026 / Column婚礼激減時代に、業界がまた同じ答えへ走り出しているような気がします…。
先日、ブライダル業界の資料があったのでダウンロードして読んでみました。
披露宴を実施するカップルは、2025年の21.4万組から2035年には13.1万組へ、
約4割減少するという試算が載っていました。
そして、その対策として挙げられていたのは、会費制結婚式の推進、事業の多角化、
AIによる業務効率化、オペレーションの共通化、
そして「徹底した標準化による属人性の排除」でした。
ブライダル業界向けの資料としては、なるほどな、と思いながら読みました。
市場の変化が整理され、今後取り組むべきことが分かりやすく示されていました。
経営会議で説明する資料としても、社内を動かすための根拠としても使いやすいと思います。
ただ、婚礼の現場に長くいる人間として、読みながら、正直に思ったことがあります。
今さらか。と。
会費制も、少人数婚も、地域で行う結婚式も、AIを使った業務効率化も、何も間違ってはいません。
むしろ、これから必要になるものばかりです。
問題は、それを全国の婚礼企業が一斉に「正解」として採用したとき、何が起きるのかということです。
独自性を求めながら、同じ方法を勧める矛盾。
まぁ、そこらは、企業それぞれが自社の独自性を考えるのだと思いますが
その差はたかが知れていると思います。
大差ない式場をいくつも見学して、ひとつに選んだ理由は「ウェディングプランナーさんが良かったから」が多いですしね。
このレポートの中では、衰退期の企業に必要なものとして、「本質・独自性・共感経営」や、他社にはない差別化が挙げられています。なので、これは正解だと思います。
ところが、その後に続く具体策は、
会費制の別ブランドをつくる。
価格をワンプライスにする。
選択肢を絞る。
打ち合わせを最短2回にする。
AIで問い合わせに対応する。
業務をマニュアル化する。
属人性を排除する。
地域ナンバーワンを目指す。
というものです。
これを複数の会社が同じように実践すれば、数年後には全国に、
「合理的かつ上質な会費制ウェディング」
「打ち合わせは最短2回」
「安心のワンプライス」
「24時間AI相談」
「地域密着型ウェディング」
という、よく似た商品と広告が並ぶでしょう。
独自性を求めながら、全社が同じ型を導入する。
その先に起きるのは、差別化なんか、ほぼほぼないんじゃないですかね。
結局は、どこが安いか。
どこが広告費をかけられるか。
どこが早く大量に販売できるか。
縮小した市場の中で、また同じ競争が始まります。
婚礼業界は、何度も同じことを繰り返してきています。
かつては、どこも「貸切ゲストハウス」を掲げました。
その後は、「オリジナルウェディング」「おもてなし」「アットホーム」「インスタ映え」。
コロナ禍には「オンラインウェディング」
同じ言葉が業界中に広がり、最初は新しかったものが、いつの間にかどこにでもある商品になっていきました。
そして今度は、
会費制。
少人数婚。
フォトウェディング。
タイパ。
AI。
地域密着。
生涯顧客。
へと看板が掛け替えられようとしています。
時代に合わせて商品を変えることは必要です。
しかし、業界全体が同じ方向へ走れば、それは変革ではなく、単なる次の横並びです。
市場が縮むたびに、外から与えられた「正しい答え」を一斉に採用し、その答えの中でまた競い合う。
これでは、結婚式をする人が減っている本当の理由には、いつまでも届きません。
結婚式をしない理由は、打ち合わせが多いからだけではありません。
結婚式をしない人たちは、単に準備が面倒だから、料金が高いから、選択肢が多すぎるから、やらないのでしょうか?
もちろん、それも一因です。
しかし、もっと根の深いところに、
結婚式をする意味が分からない。
人を招くことに申し訳なさを感じる。
高額な費用に見合う価値が見えない。
過去に参列した結婚式に魅力を感じなかった。
自分たちらしくない形式に思える。
誰のためにするのか分からない。
という問題があります。
ここを解決しないまま、打ち合わせを2回に減らし、価格を分かりやすくし、AIで即答できるようにしても、
やりたくないと思われている結婚式を、少し安く、少し手軽にしただけ
になってしまいます。
それでは、既に結婚式をするつもりだった人を取り合うことはできても、
結婚式をしない人の心までは動かせません。
属人性は、本当に排除すべきものなのか
もちろん、婚礼業務には標準化すべきものがたくさんあります。
問い合わせへの初期対応。
見積書や進行表の作成。
スケジュール管理。
議事録。
確認事項の共有。
繰り返し発生する事務作業。
こうした部分は、AIやデジタルを活用して、もっと効率化すべきだと思います。
人が時間を使わなくてもよい作業に追われ、その結果、本来向き合うべき新郎新婦や
家族との時間が削られているのなら、本末転倒です。
しかし、だからといって、結婚式そのものまで脱属人化してよいとは思いません。
結婚式には、その家族にしか分からない歴史があります。
親子の距離。
亡くなった人への思い。
言えなかった感謝。
長く抱えてきた後悔。
家族同士のわだかまり。
これから夫婦として生きていく覚悟。
それらは、入力項目を埋めれば自動的に最適化されるものではありません。
同じ30名の結婚式でも、同じ会場でも、同じ予算でも、その日に必要なものは一組ずつ違います。
何を入れるか。
何をやめるか。
誰に、どの言葉を届けるか。
どこまで踏み込み、どこで引くか。
そこには、経験を持つ人間の観察、判断、覚悟が必要です。
「作業は標準化できる。
しかし、結婚式の意味まで標準化してはいけない。」
私はそう考えています。
会費制は「戦略」ではなく、ひとつの手段です。
私は以前から、これからの結婚式には会費制が必要になると考えてきました。
ご祝儀の負担感が増し、友人を招くこと自体に遠慮が生まれている今、金額を明確にした会費制は、時代に合った仕組みです。
引出物をなくすことも、必要のない演出を減らすことも、地域のレストランや公共施設、寺院、美術館などを使って結婚式を行うことも、理にかなっています。
けれど、それは「会費制が流行るから」ではありません。
招かれる人の負担を考えた結果、会費制の方が筋が通るからです。
「地方創生が注目されているから地域婚をする」のでもありません。
その人が生まれ、育ち、暮らしてきた土地で結婚を祝うことに、意味があるからです。
同じ施策でも、起点が違います。
市場の流行を起点にすれば、商品になります。
人の人生を起点にすれば、結婚式になります。
衰退期に必要なのは、商品数ではなく存在理由です。
婚礼件数が減る。
だから、フォトも始める。
会費制も始める。
レストランも始める。
婚活も始める。
AIも入れる。
それだけでは、事業の種類が増えただけです。
本当に問われているのは、
「自分たちは、何のために結婚式に関わっているのか。」
ということではないでしょうか。
会場を埋めるためなのか。
衣裳や料理を販売するためなのか。
一件当たりの利益を確保するためなのか。
それとも、人が人生の節目を迎えるとき、その意味を一緒に見つけるためなのか。
存在理由がないまま商品だけを増やせば、どの事業も薄くなります。
反対に、存在理由が明確であれば、婚礼、婚活、教育、周年、地域の祭りも、
ばらばらの多角化にはなりません。
すべてが「人の人生を祝い、つなぐ」という一本の線で結ばれます。
これらを理解してから、「生涯顧客化」と、うたってほしいです。
「誰でも同じ品質」の先にあるもので、誰が担当しても同じ品質になることは、
企業として大切です。
しかし、誰が担当しても同じ結婚式になることとは、まったく違います。
効率化のために人間らしさを削り、再現性を高めるために一組一組の違いを薄めていけば、残るのは運営しやすい商品です。
それを、果たして結婚式と呼べるのでしょうか。
婚礼業界がこれから本当に守らなければならないのは、これまでの高額な価格体系でも、巨大な施設でも、昔ながらの形式でもありません。
人が誰かを思い、人生の節目に立ち会うことの意味です。
AIは使えばいい。
会費制も進めればいい。
無駄な業務は、徹底的に減らせばいい。
ただし、人にしかできない仕事まで、効率の名のもとに手放してはいけない。
感動は、標準化できません。
人生は、マニュアルどおりには進みません。
だから私は、
「作業は脱属人化する。感動は、むしろ属人化する。」
その両方を成立させることが、これからの婚礼に必要だと思っています。
業界がまた同じ答えへ一斉に走り出すなら、私たちは、その流れを少し斜め上から眺めながら考えたい。
みんなが向かっている先に、本当に結婚式は残っているのか。
それとも、結婚式という名前の、効率よく販売できる商品だけが残るのか。
その違いを見失わないことこそ、婚礼激減時代を生き残るための、最も重要な戦略なのだと思います。